明治の空気が美しい|『東京ラストチカ』(全2巻)
- 作者: みよしふるまち
- 出版社/メーカー: マッグガーデン
- 発売日: 2010/11/15
- メディア: コミック
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総括
時は明治43年、母を亡くし華族有馬家へ奉公へ出ることになった花(読み方:はな)と、その有馬家当主の光亨(読み方:みつゆき)が、身分という壁を越え心を通わせる物語。
物語
後述のキャラクター造形による引きずられた部分もあり、ストーリーは少し凡庸だったかなあという印象。病の件は、ベタとはいえ、時代を考えると登場しうる要素だとは思うのです。ただ、特にこの時代であれば、もっと無意識の裡に身分意識というものがあるのが自然にも思います。その辺りの葛藤がないと綺麗すぎてしまう。舞台が現代であっても通用してしまうのでは勿体ないです。
絵柄
とても可愛らしく綺麗です。両巻表紙のカラーイラストは透明感があり、作品の雰囲気がよく表れています。本編もすっきりとした線画。舞台が舞台だけに、現代モノとはまた違ったディテールも描かれていますが、そこも煩すぎず寂しすぎず。花の素朴な可愛らしさ、千鶴子(光亨の従妹)の華やかな可愛らしさが描き分けられているところなども好印象です。
キャラクター
一方、キャラクターの造形にはちょっともの足りなさがありました。健気だが、その素直さで周囲の人間の心を開かせる主人公。華族であるにも関わらず、驕りがなく、庶民にも分け隔てなく接する当主。その身の窮屈さを嘆き、その反動で傲慢な振る舞いをするお嬢様。ちょっと紋切型の「まんま」だなあと。光亨の父、母の振る舞いも、当時の華族としてはごく一般的なものだったのではないかと思いますが、作品内に於いては主人公サイドからの視点しかありませんしね。キャラクター一人ひとりの印象は、悪くはないのですが魅力的でもなかった。もう少し肉付けされているとよかったと思います。
おすすめの見どころ
作者が一番描きたかったのは、「明治の雰囲気」なのではないかと思っています。実際、当時の風俗をよく調べられていますよね。それを「どうだ、見ろ!」と得意げに描くのではなく、ディテールとしてさり気なく織り交ぜているところが。空きページの「明治のなんかかわいい風景」「本編で描きわすれたのでここに描く」には、かなりの共感! 私も、日本に西洋の文化が入ってきた、日本が西洋のよいところをどんどん取り入れようとしていた、でも日本本来の感性も残っている、という明治から大正にかけての時代に魅力を感じておりまして、現代から見ても遜色のないものや、現代では生まれえないものがたくさんあるように思うのです。書生姿……作者さん解ってる!
花の生まれ育った日暮里が、当時は貧しい町だったとは知りませんでした。一方で、華やかな銀座、日本橋。当時「東京で空に一番近いところ」と言われたという、浅草の凌雲閣。何と12階建て! 現代では、少し離れたところになってしまいましたが、スカイツリーが浅草を見下ろしていますね。
本のカバーを取ると、本体表紙と裏表紙にオマケがありますので、レンタルで読む場合などはお見逃しなく!(登場人物の年齢はここで判った。思ったより若めの面子でした)
その他小ネタ
「ラストチカ」の意味
アルファベット表記を見てみると「Lastochika」と書かれていました。ラテン語系かと思っていたのでちょっと意外でした。
少し調べてみたところ、どうやらロシア語で、ある生きものを表す言葉のようです。自力で突き止めたわけではないので、ここへはその訳語を記しません。作品内に確かにその生きものが登場するシーンがあり、その表現を不思議に思っていたのですが、これで納得しました。まあ、それでも何故このタイトルになったのかは解らないのですが……。もしかして元ネタになるような、歌や句、故事なんかがあったりするのでしょうか。だとしたら不勉強で申し訳ないです。
感染の心配
本編にはとある病が登場しますが、その患者に皆割とベタベタ接していたので、当時そんなものだったのかなあと気になりました。現代でも一般人が看病するようなものでもないし、特に当時は情報がない分、皆恐れていたものだったのではないのかなあと。